2014年4月20日日曜日
滅びるからこそ " 漢(おとこ)" は美しく気高い
漢(おとこ)には、確実に死ぬとわかっていても赴かねばならない時と場所がある。
香港フィルム・ノワールの最高傑作「男たちの挽歌」。
組織の秘密工場から偽ドル 札の原版を強奪したホーとマーク、港から沖合に 停泊する外航船に乗り込むべくボートのエンジンを 始動させるマークに、ホーは原版の入ったバッグを 投げ渡し一人で外航船に向かうよう促す。「ホーさん、なんで一緒に行かないんだ? 一緒に行こう」と懇願するマーク、わずかに微笑を浮かべ静かに首を振るホー、ホーが自らの死を もってすべてを清算する覚悟であることをその表情から悟ったマークは、断腸の思いでエンジンをふかし沖合へと向かう。
その刹那、原版を奪還すべく港へなだれ込んだ組織 の首領シンとその手下たちが、実兄であるホーに激しい憎悪を抱く香港警察の捜査官キットを人質にとり、原版との 引き換えを要求する。引き換えが成立するや否や、 激しい銃撃戦の口火が切られ、ホーとキットの兄弟は窮地へ追い込まれる。
響き渡る銃声と爆音を背中で聞きながら、沖合に停 泊する外航船に向かっていたマークは、埠頭の沖合 でボートをスローダウンさせる。銃声はますます激 しくなり、紅蓮の炎が天空を焦がす、今や埠頭は地獄絵図と化していた。苦悶の表情を浮かべ激しく葛 藤するマーク。戻れば確実に死ぬ、このまま外航船に乗り込み、海外へ逃亡すればもう一度やり直せる。ホーも心底それを望んでいる。しかし、ホーと キットの兄弟を見殺しにできるのか? 何よりも親友であるホーを見捨てることができるのか? 苦悶するマーク。次の瞬間、マークはボートをUターン させ船首を埠頭へと向ける。今や地獄絵図と化し、戻れば確実に死ぬとわかっている埠頭へ全開でボートを走らせるマーク。
激しい銃撃戦の中、ホー、キットの兄弟の確執は次第に氷塊しつつあった。しかし、銃弾を受け、反撃の弾丸も尽き、万事休すとなったその刹那、不動明王の如き憤怒の表情でサブマシンガンを乱射し、手榴弾の爆幕で敵をなぎ倒すマークの姿が、唖然とするホー、漢と漢の目が合い、言葉を交わすことなく お互いの心中のすべてを知る。次の刹那、夏に咲くヒマワリのような屈託のない微笑を浮かべたマークが、敵陣に追い打ちをかけるように弾幕を浴びせる。
戦い、傷つき、倒れている兄を見てもまだ心が開けない弟のキットに対し、怒りを爆発させるマーク。
「兄さんのこの姿を見ろ! 兄さんは すべてを償った、なぜおまえはこんなに立派な兄さんを許せないんだ!!」
マークがキットの胸倉を掴んだその刹那、組織の首魁であるシンが放った凶弾が頭部を貫き、敵の集中砲火を全身に浴び息絶えるマーク。
漢には、確実に死ぬとわかっていても赴かねばならない時と場所がある。
それが漢、それが漢のレゾンデートル。
滅びの美学があるからこそ漢は美しく気高いのだ。
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