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2010年9月17日金曜日

幻の連続ラジオドラマ 「あいつ」

その昔、1970年代後半、FM東京(現在のTOKYO FM)で、平日深夜(23時45分から23時55分)の10分間、トヨタ自動車の提供により放送されていた幻の朗読番組があった。「あいつ」である。

「あいつ」は、ハードボイルド作家の矢作俊彦(やはぎとしひこ)原作のクールなハードボイルドストーリーを、俳優の日下武史(くさかたけし)がその個性的な声音で朗読し、エピソードの合間に洋楽が一曲挿入されるというプログラム構成だった。

謎の人物「あいつ」は、元外人部隊の凄腕らしという事はわかっているが、その他国籍や職業などは一切不明。物語は「あいつ」を軸に、過去の因縁や国際的陰謀が絡み合い、スリリングに展開してゆく。

クールでミステリアスなストーリーもさることながら、ストーリーテラーである日下武史の朗読が素晴らしい。一度聞けば二度と忘れない、日下武の個性的な声なくして、この朗読劇は成立し得なかっただろう。

話は変わるが、この時代のFM東京は、23時スタートの「フジフィルム ミュージックスコープ」に始まり、小室等の音楽夜話、そしてこの「あいつ」を経て、24時からの「ジェットストリーム」に至るまで、まさに珠玉の番組ラインナップであった。ミュージックスコープのケン田島、小室等、「あいつ」の日下武、そして大御所・城達也と、まるで綺羅星の如き個性溢れるパーソナリティが揃っていた。

「あいつ」のオープニング曲は1971年製作のイギリス映画「GET CARTER(邦題/狙撃者)」のメインテーマとして有名なロイ・バッドの「GET CARTER」である。

ハープシコードとコントラバスのコラボレーションによるジャジーでクールなこの曲は、ミステリアスな「あいつ」の物語と余りにもマッチし過ぎていたため、今でもこの曲を聞くと、すぐに「あいつ」を連想してしまう。

短小軽薄な時代こそ、本物の持つ価値は大きい。上質な大人のエンタテインメント「あいつ」の復活を切に願う。