全長3000mm、全幅1300mm、全高1200mmという超コンパクトボディに、最高出力37PS/6500rpm、最大トルク4.2kg-m/4500rpmを搾り出すLC10W型水冷2サイクル3気筒3キャブレターエンジンをリヤに搭載した世界最小のスポーツカー、それが1971年9月にデビューしたスズキ・フロンテクーペである。
ジョルジェット・ジウジアーロが手がけた流麗且つスポーティなボディフォルムは、とても全長3mとの軽自動車とは思えない圧倒的な存在感とオーラを感じさせる。
発売当社は2シーターのみだったフロンテクーペだが、翌72年2月には2×2のGXFが追加設定された。
その昔、友人が73年式のフロンテクーペGXCFに乗っていて、二人でよく深夜の箱根詣でに出かけた。
フロンテクーペのコクピットは超カッコよかった。標準シートはバケットタイプで、ステアリングもウッド調の3本スポークタイプが奢られていた。
圧巻だったのはコンソールパネルのメーター群である。シートに体を滑り込ませると、ドライバーの眼前にはフルスケール1万回転のタコメーターと140km/hまで刻まれたスピードメーターを中心に、燃料計、水温計、電流計、時計の6連メーターが整然と並ぶ。メーター萌えのアナログ・メカ好きには悶絶寸前の光景である。
アクセルを軽く煽りキーを捻ると、暫しのクランキングの後、咳込むような音とともに2サイクル3気筒エンジンが目覚める。「パランパンパンパン・・・・」。
ウォームアップ後、クラッチを切りクロスレシオのギヤ比を持つ4速MTのギヤをローに入れる。アクセルを踏み込み、回転を5000回転まで上げてクラッチを一気につなぐ。もうもうたる白煙がバックミラーに広がり2サイクルエンジンオイルの甘い香りが室内に立ち込める。と、次の瞬間、リヤをスコートさせたフロンテクーペは、まるでカタパルトから弾き出された戦闘機よろしく傲然と加速して行く。
3キャブレターで武装した高性能2ストロークエンジンとは言え、排気量はたった356ccの軽自動車、箱根の登りでは勝負にならない。バトルはもっぱら下り。特にツイスティでトリッキーな長尾峠の下りでは敵なし(爆)。
フロンテテクーペのサスペンションは、フロントサスペンションにダブルウィッシュボーン&コイル、リヤはトレーリングアーム&コイルの4輪独立懸架。軽自動車とは思えない豪華な足である。
そのセッティングはハードに締め上げられたスポーツサスペンション。39.5:60.4というリヤよりの前後重量配分により、RR方式ならではの小気味よいハンドリングとスタビリティ溢れるコーナリング性能を発揮した。
長尾峠の下り、直線区間でも離されても、コーナーではケツに食いつくというスッポン走行で、TA22セリカやTE27レビンなど、2クラスも3クラスの上のクルマを追いかけ回した。
ブレーキングをギリギリまで遅らせてコーナーに突っ込み、一瞬アクセルオフ。タックインで一気にテールが流れるのを弱カウンターで抑えアクセルオン、床まで踏みぬく。緊張するが、決まった時の爽快感は格別だった。
エコ、環境が叫ばれる昨今、フロンテクーペの再来を切に願う。パワーはなくとも楽しめるクルマ、燃費が良くてスポーティーがクルマ、お洒落でカッコいいクルマ、30年以上も前のクルマにその全てがある。