2010年9月19日日曜日
萬屋錦之介 ' 破れ奉行 '
空前絶後という言葉はこの男のためにある。
萬屋錦之介は不世出の役者である。
端正で「ますらお」な顔つきはもちろんだが、錦之介の魅力はそれだけに止まらない。
その剛胆にして骨太な立ち回り。独特なべらんめい調のセリフ回し。そして匂い立つような男の色気。すべてが天賦の才のなせる業である。
数ある主演作品の中でも、白眉と呼べるのが「破れ三部作」。その中でも1977年にテレビ朝日で放映された「破れ奉行」は錦之介作品の最高傑作である。
「破れ奉行」は、老中・稲葉越中守より「葵の御紋」が刻印された将軍家拝領刀を与った深川奉行・速水右近の活躍を描く異色時代劇で、錦之介作品の醍醐味である派手な殺陣や豪快なセリフ回しが存分に堪能できる。
特に派手なのが、クライマックスの成敗シーン。稲葉越中守から「暗黙の了解」をとりつけた速水右近は、黒い頭巾を被り、幕府御船手組組頭・向井将監から借りた江戸時代のパワーボート(もちろん人力、漕ぎ手2名))鯨舟で単身悪人成敗に赴く。
悪人宅にドドーンと乗り込むと、いきなり銛を投げ、啖呵を切り、バッバッタと悪人どもを切り捨てる。フィニッシュは大量の半紙で刀を拭い、一気に天井へ。天井から大量の半紙は舞い、一件落着。めでたしめでたし。勧善懲悪ここに極まれり。爽快なカタルシスの波が押し寄せる。
これぞまさにヨロキンワールドの真骨頂。