2012年5月3日木曜日
サスペンションセッテイングの基礎知識・番外編 ' トー角の調整 '
重要であるにも関わらず、意外にも見落とされがちなのがサスペンションのトー角調整である。
トー角とは、車体上方から見た、前後タイヤ取り付け部前方の角度を指す。
この角度が内側に向いている場合は「トーイン」、外側に向いる場合は「トーアウト」という。
一般市販車の場合、1G(制止状態で、サスペンションにバネ上荷重がかかった状態)でのトー角を想定して若干トーイン気味にセッテイングされている。
「トーイン」の場合、タイヤが前方に転がり始めると、上方から見て「ハ」の字に開いたタイヤの前方が押し広げられ、その抗力により直進性が向上する。
しかし、過度なトーインの場合には走行抵抗が増大し、パワーロスや燃費の低下、さらにはタイヤの偏摩耗の原因となる。
最近のクルマは、ファミリーカーでも4輪独立式サスペンションが常識となっているため、フロントとリヤのトー角を、走りの目的に合わせて細かくセッティンングする事が可能である。
特に、リヤサスペンションのトー角調整は、クルマのコントロール性能に大きな影響を及ぼす。
トー角のセッティングは、まず前後のトー角をゼロに設定する事から始める。
まずはその状態で走り込み、クルマの挙動(特に滑り出し)を体に叩きこむ。
走り込みは、ストリートやサーキットといったロードコースではなく、できればジムカーナ場などのモータープール的なコースにパイロンを立て、定常円旋回のようなコース設定で行うのがベストである。
定常円旋回とは、円周コースを一定の舵角で旋回し、徐々に旋回スピードを上げながら、クルマの挙動をチェックするテストドライビングの一つの方法である。
通常、前輪駆動車の場合には、駆動輪と操舵輪を兼務するフロントタイヤがリヤタイヤよりも先にグリップ限界を超えるため、操舵量よりも外側に膨らむアンダーステア傾向を見せる。
それに対し後輪駆動の場合は、操舵輪であるフロントタイヤによりも駆動輪であるリヤタイヤの方が先にグリップ限界を超えるため、操舵角よりも内側に巻き込むオーバーステア傾向となる。
そして、4輪駆動車の場合には、前輪駆動と後輪駆動の両方の挙動を併せ持っている。いわゆるアンダー・オーバーと呼ばれる挙動である。
トー角をゼロにした状態で定常円旋回を繰り返し、アンダー、オーバー、いずれかの挙動が発生するポイントをマークした後は、次にリヤのトー角をインに2mmにつけ、再び定常円旋回を繰り返す。
リヤのトー角がイン側に多くついた場合には、通常アンダーステアの挙動が顕著になる。しかし、その分アクセル開度に対するクルマの反応は鈍くなり、コーナリング時の姿勢は安定する。
そのため、進入を抑えて慎重にコーナリングアプローチを行い、確実にフロントをインに向けてやれば、後はクリップやや手前からアクセル踏み切りでコーナーを抜ける事が可能だ。
次にリヤのトー角をインに1mmに変更する。そして再び定常円旋回。恐らく、イン2mmに比べてリヤの滑り出しが若干早くなった感じがするはずだ。
このセッティングは、基本的に弱アンダーステアの挙動を示すので、リヤを振り出してからのコントロールに優れている。そのため、進入からリヤを振りだし、そのままドリフトしながら踏み切りでコーナーを抜けるには最適なセッテイングである。
因みに、以上の挙動はあくまでも経験値に基づく一般論であり、スプリングやショックアブソーバー、ブッシュ、さらにはボディ剛性などによっても挙動は大きく変化するという事を最後に付け加えておきたい。