熱いコーヒーをすすりながらもなぜか鳥肌が立っていた。
寒気を感じるの冷房の効き過ぎだけではなかった。確かに隣の席に誰かがいる。
帰りの車中、どちらも口を開かなかった。AE86の車内は重苦しい沈黙が支配していた。
「なんか、嫌な場所だったよな~」。
静寂を破ったのは同僚のIだった。クルマは湾岸の千鳥町付近にさしかかっていた。
「あそこはまずいって、なんか、凄く沢山の人達に見られていた気がして・・・・」。
それが突破口だった。
現地でそれぞれが感じた事、見た事、そして聞いた事を、溜まっていた恐怖感が言葉となり、堰を切った川のように溢れ出した。
自宅に戻った時、時計の針は午前3時を過ぎていた。
まんじりともせず夜が明けた。
眩いばかりの夏の太陽を浴びて目覚め、ぼんやりとした頭で洗面をしていると前夜の出来事がまるで夢のように感じた。
あれは夢だったのではないか? そんな思いも束の間、けたたましく電話のベルが鳴った。
「もしもし! すぐ来てくれ!」。
同僚Iからだった。その声は恐怖に震えていた。
IのAE86が停めている駐車場に駆けつけると、愛車の前で茫然と立ち尽くす蒼ざめたIがいた。
「しっかりしろよ! どうしたんだよ?」。
するとIは震える右手でAE86のフロントグラスを指さした。
恐る恐るフロントグラスに近寄り、まじまじガラスを見つめた。と、次の瞬間「あっ!!!!!」と思わず飛びのいた。
真夏の太陽の下、鳥肌が立ち、震えが止まらなかった。
AE86のフロントグラスには、明らかに人のものと分かる手形がいたる所に付着いていた。
それから、およそ半年間、同僚のIの周辺には、バイクが燃える、仮払いを全額落す、フェラーリにオカマを掘るなどの不幸なアクシデントが連発した。
彼らが眠る場所で決してジムカーナの練習などしてはならない。。