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2010年11月16日火曜日

自動車雑誌業界怪談 「誰かいる」前篇

AE86でジムカーナに夢中だった頃の話。

同僚の編集者である井戸がライターのS氏からジムカーナの練習に最適な場所があるとの情報をゲットしてきた。

狂喜した我々は校了明けのある晩、纏わりつくような雨がそぼ降る中、同僚井戸のAE86トレノGTハードトップジムカーナ仕様で、勇躍千葉県の某市にあるその「幻の練習場」へと向かった。

湾岸から京葉道路を経由し、東金自動車道へ。終点の山田ICを降りた頃には午前0時を回っていた。

カーナビなどまだない時代、絵心のないS氏が描いたまるで幼稚園児の絵のような地図を頼りに、ひたすら千葉の外れの田舎道を爆進していると、なんと奇跡的にもそれとおぼしき場所に着いてしまった。

何かが書かれた看板を目印に国道を左折し、荒れた舗装路をしばらく走ると、幅20メートルほどの半開きの鉄門が見えて来た。

降り続く雨の中、トレノのリトラクタブル式角型ヘッドライトが照らし出された鉄門は、まるで地獄への入口のように見え、生理的な恐怖心を煽りたてた。

思わず身震いしたものの、勇気を奮い起こしゲートの中へとクルマを進めた。

両サイドに背丈ほどの雑草が生い茂る荒れた舗装路を進むと、突然視界が開けた。

確かに広場のようだった。

路面はアスファルトではなく小砂利が混じったコンクリート舗装。旧飛行場の跡地かと思われた。

現金なもので、その広場を見たとたん、それまでの憂鬱な気分は吹き飛んだ。

わ~い、わ~い、練習だ~!!(笑)。

同僚の井戸と下手くそなサイドターンの練習開始。雨の中、ズタ袋を引き擦るようなズザザザザッ~という音が響き渡る。

しかし、そんな躁の気分もなぜか長くは続かなかった。

練習を始めて僅か10分後、車内は重苦しい空気に包まれた。そう、我々は何かに気づいてしまったのだ。

誰からに見られている感覚。。。誰かいる。ぼうぼうの雑草の影から立ち昇る妖気。

クルマを停め、マイルドセブンをフィルターまで吸いつくした後、どちらからともなく言った。

「帰ろうか」・・・。

と、ほうほうのていでその場を後にした。

どうやってそこを出られたのかは定かではない。

ふと気がつくと国道にぶつかる信号まで戻っていた。いつの間にはあの鉄門を通過していたようだ。

そこから東金有料道路の山田インター入口まで、まさに「あっという間」に着いてしまった。

それもそのはず、帰路の信号がすべて「青」だったからだ。

いくら交通量が少ない田舎の道とは言え仮にも国道である。押しボタン式の信号ばかりではない。それがすべて「青」だったのだ。

ほっとした我々は、山田インター入口近くにある24時間営業のデニーズで小休止する事にした。

日曜日の深夜1時過ぎ。駐車場にクルマを停め店内へ。

「ようこそデニーズへ! 3名様でよろしいでしょか?」

うん、3名??? 2名なんですけど。。。。

「いえ、2名です」。「は~??」。

しきりに首をかしげ怪訝そうな表情のウェイトレスの案内で喫煙席に座った。

暫くして別のウェイトレスが水を持って注文をとりにやってきた。

「ようこそデニーズへ!」

グラスを一つ、二つ、、、、、、三つ。。。。。

あの~、2名なんですけど。。。。

「ご注文は??」

「コーヒー二つ」

「お連れ様は??」

「あの~、2名なんですけど」。。。

気まずい沈黙が続いた。

その静寂を破ったのはI。

「さっきさ、誰かに見られてる感じがしたんだけど!」

「あっ、俺も感じた!」

二人の視線はグラスが置かれた隣の席を見つめていた。